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パソコン・スマートフォン使用に伴う不調の鍼治療
米子信愛鍼治療院
松本 剛典
はじめに
2004年私はモニターとして鳥取労働局の視覚障害者パソコン研修マニュアルの作成に加わりました。研修時間は120時間(3時間×40回)でした。研修が進むにつれ集中できる時間が長くなり作業の効率化がはかれました。それと同時に肩頸の疲労感、頭重感を感じるようになりました。操作の適用と身体への負荷が起きたのです。このようなパソコン(IT機器)使用に伴う負荷は多くの人に起こるのではないかと想像しました。
1. 生活の中のIT機器
1995年マイクロソフト社のOS Windows95の発売がパソコンの一般への普及のはじまりと考えていいでしょう。時期を同じくして携帯電話の普及が進んでいきました。2000年代に入るとパソコンはデスクトップからノート型に置き換わっていきました。ガラケーはスマートフォンへと置き換わっていきました。IT機器の機能は加速度的に向上していきました。今では電化製品の中に当たり前にパソコンの機能が組み込まれています。
2. 基本的な処方
鍼師にとって肩こりの治療は、普段から経験するものです。ITを利用している患者さんの治療は、肩こりの治療と共通する内容を多く含んでいます。
浅背筋群、背部・頚部脊柱起立筋、後頭部の処置は皆さんもよく行われているものと思います。患者さんのITの使用状況によりマウスを多用する方の肘関節周囲、示指・中指の疲労に対する処置なども皆さん経験していることだろうと思います。そして眼精疲労の対応も特徴の1つだと思います。
症例1
Kさん 女性 75歳
初診日 平成23年6月14日
主訴 肩の痛み 眼精疲労 頭痛
電子申請を行うためにパソコンを普段と違う使い方をした。使用した日から2日経つが症状が改善しないために来院。
基本的処置を行ったがコリをほぐすというよりも緊張感を取り下げる感覚で処置を行う。
治療日 令和3年12月8日
使用鍼 ステンレス 0.16mm×40mm
評価 「何回やっても上手くいかないんです」電子申請を行うために慣れない操作を繰り返したらしい肩頸に余分な力が入り症状を起こしたようである。筋肉の状態はコリというよりも緊張感が強かったように思われたので鍼は刺激をださないようにそっと用いた。治療した最中に症状は解消。ほぼ基本的な処方を行った。
症例2
Hさん 男性 52歳
初診日 平成24年10月10日
主訴 右の肩関節・上肢痛 上肢の痺れ
右の肩甲骨内縁〜肩上部・上肢の痛みが特に強くなった。
既往歴 頸椎の椎間板ヘルニア(C5-6)
治療日 令和3年11月8日
使用鍼 ステンレス 0.18mm×40mm
治療 肩甲骨内縁・肩甲棘上縁・後頚部の起立筋を中心として処置。コリが強い状態であったためコリが取れるまで使用した。刺入深度として肩甲骨内縁は20mm肩甲棘上縁及び頸椎側に関しては30mm(頸椎側は深度20mmよりも奥にかなり強いシコリがあった)
第2診 11月13日
前回の処置で症状は大半が改善。上肢の痺れが少し残ったので前回の処置の残りと上腕の後側から肘関節の周囲の処置を行う。上腕後側から肘関節周囲は0.16mmを使用。
評価 CADを使った図面の作成及び書類作成を日常の仕事としておられる。ITスキルは高い。6時間〜7時間、通常の使用としているが仕事のスケジュールが過密になり長時間の残業を行ったようである。この例はIT使用に過剰に適用した症例だと思われる。
症例3
Yさん 女性 30歳
初診日 平成11年2月6日
主訴 腰痛 背部痛 頚肩部痛 頭痛
治療日 令和3年8月20日
第2診 9月13日
育休が終わり仕事の形態がリモートワークとなりました。ご本人はITのスキルもあり意欲的に取り組み始めました。ただし子育てとの負担が重なったために思っている以上に疲れてしまったようです。
主訴として左の腰部から下肢にかけて痛みがあり座っていられなくなる。背中から肩頸が固まった様な状態になる。
使用鍼 ステンレス 0.16mm×40mm
評価 ノートパソコンを使っての作業でディスプレイを上から覗き込む姿勢に問題があったように思われます。左仙腸関節と左右の脊柱起立筋を処置して終わりました。2診の処置で症状改善。
症例4
Mさん 男性 30歳
初診日 平成31年2月22日
主訴 肩こり 頭痛 眼精疲労
治療日 令和3年2月9日
第2診 2月12日
第3診 3月6日
第4診 3月9日
職業 銀行員
仕事でもプライベートでもほぼパソコン・スマホを使い続けている。以前から疲れると眼の不調を訴えていたがこの度初めて右目の斜視について相談を受ける。疲労が溜まると症状が顕在化するとのことであった。肩から頸の処置に加えて上眼瞼の処置を加える。0.14mm×40mm 3鍼程度。
1度の処置で症状が軽減するが疲労が増すともう1度症状が顕在化した。その後来院治療しているが斜視は改善
評価 スマホの長時間使用に伴う斜視の症状が問題となっているがこの症例もその中の1例であった。初期のものであれば症状改善も比較的容易であると思われる。
考察 IT機器の使用に伴う不調は使用時間が長くなるにつれて顕在化してくる。ITスキルの低い人にとっての1時間はかなり大きな負担を生じるようである。これは急性的なものであると思われる。
一方、ITスキルの高い患者さんの症例では長時間の使用が常態化しており慢性疲労の状態が生じているように思われる。どちらかといえば慢性的な症状と思われる。
パソコン(デスクトップ)について言えばディスプレイが大型化しており眼が受ける光の影響が大きくなっているように思われる。
ノートパソコンではやはり覗き込む姿勢が症状を強くしているように思われる。スマートフォンでは画面が小さいために凝視する傾向が強くなり眼の調節に関わる問題が起きやすくなっている。
まとめ 20数年前にIT機器を多用する時代が訪れた。IT機器の対応が個人に求められるようになるにつれて最初は不定愁訴として捉えられていたものが今ではIT機器使用の不調として意識的に診療に当たらなければならないように思う。私たち鍼灸師にとって求められている課題である。
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