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糖尿病に対する鍼治療処方の研究
西山 明恵
はじめに
平成27年7月7日の健康診断で院長が糖尿病と診断されました。
そこで院長の指導の下、
糖尿病について
(糖尿病とは)
血液中のブドウ糖(血糖)が多くなる病気。長い時間をかけて血管をボロボロにしていく病気。糖尿病の種類で一般的に知られているものとして、「1型糖尿病」と「2型糖尿病」がある。
1型糖尿病には、自己免疫反応の異常やウイルス感染により、すい臓のβ細胞を自分で攻撃してしまい、インスリンを出す機能を壊してしまうタイプ(自己免疫性)と原因不明のタイプ(特発性)の2つがある。
2型糖尿病は、いくつかの遺伝因子と食べ過ぎ、運動不足、ストレス、といった生活習慣が加わって、インスリンの働きを悪くしてしまい発症する。
(症状)
○のどがすぐ乾き、水をよく飲む。
○おしっこの回数が多く、量が多い。
○重症化するとお腹がすいてよく食べるのに、体重が減っていく。
(原因)
インスリンが少なくなったり、感受性が低下し、ブドウ糖をうまく血液中から体内に取り込めなくなる。
(合併症)
1.糖尿病網膜症
糖尿病の初期から自覚症状なく進行する。網膜の毛細血管を傷つけ、眼底出血や網膜剥離を起こし、最終的には失明にいたる。
2.糖尿病腎症
血糖値が高い状態をほうっておくことで、徐々に腎臓が傷つけられ、尿と一緒にたんぱく質も出てくる。次第に腎臓の働きも弱くなり、最終的には腎不全になり、人工透析が必要な状態にいたってしまう。
3.糖尿病神経障害
手足の感覚などをつかさどる末梢神経にダメージを与える。症状としては手足がしびれたり、悪化すると痛みの感覚が鈍くなったりする。初期の段階から自覚症状がある場合もある。
4.心筋梗塞(続発疾患)
5.脳梗塞(続発疾患)
6.閉塞性動脈硬化症(続発疾患)
(検査)
○空腹時血糖値の測定(検査方法:採血)
基準値:110mg/dl未満
○グリコヘモグロビン検査(HbA1c)(検査方法:採血)
基準値:4.6〜6.2%
○75g経口ブドウ糖負荷試験(75gOGTT)(検査方法:採血)
基準値:70〜109mg/dl(空腹時)、
140未満(食後2時間後)
○抗グルタミン酸脱炭酸酵素抗体(抗GAD抗体)(検査方法: 採血)
基準値:1.5U/ml未満
○グリコアルブミン(GA)検査 (検査方法:採血)
基準値:11〜16%
(治療法)
○食事療法
1日当たりの摂取カロリーに対する食事制限。
○運動療法
運動によりカロリー消費をしてインスリンの末梢における感受性を上げる。
○薬物療法
インスリン投与・経口血糖降下薬
(糖尿病サイト・糖尿病症状セルフチェック参照)
鍼治療
(症例)
※T.M
性別 男
年齢 57歳
初診日 H27.7.13
家族歴 母方の祖父 糖尿病
母 糖尿病
母の兄弟(3人) 糖尿病
※確認できているところでは5人。
家系的な糖尿病の要素はあった。
主訴 2型糖尿病
症状 H27.7/7(火)の検査でHbA1c→9.6。
早朝空腹時血糖値→153。体重→71kg。
自覚症状なし。
H25.6月の検査では正常値。約2年の間でストレスの強い事情があった。食べ過ぎ、運動が出来ていない状態だった。
処方 鍼:ステンレス 寸3 1番鍼
副腎反応部(Th11〜L1の脊柱側)→片側3本(両側)、深度5〜10mm
肋弓(腹壁に現れる膵臓疾患の触診所見を分かりやすくするための処置:第6〜9肋骨)→片側2本(両側)、深度3〜5mm
膵臓反応部(膵臓に対する腹部の内臓体壁反射の投影部位:高さは臍から3横指上、横はほぼ正中から左腹直筋外縁の範囲)→1本、深度3〜8mm
経過
1回目 H27.7.13(月)
触診:副腎反応部は左側の方が所見膨らんでいた。(横臥位)
肋弓の触診と一緒に膵臓反応部も確認。
膵臓反応部は浮腫みのように盛り上がっていた。(仰臥位)
膵臓反応部の浮腫みが引いてくると線状の所見が触れた。
触診所見の変化:副腎反応部の触診では左側の方が膨らんでいたが変化は右側より早く感じた。
肋弓は左右で比べると右側の方が鍼に対する反応が早い。
肋弓の鍼をしていくと膵臓反応部の浮腫みが少しずつ引いていく。
膵臓反応部の所見に鍼をし、鍼をした周りの浮腫みは引いていくのが分かったが所見の変化は確認できなかった。
※処方を聞き、何をどのようにすればよいか分からないまま始めた為、指示を
2回目 7.16(木)
★2回目の検査後、医師に運動が出来にくい状況であることを相談。
薬物療法を提案されたが、経過を観察することになった。
3回目 7.21(火)
4回目 7.23(木)
※最初に腹診の練習。仰向けで股関節・膝関節屈曲位。
臍の周囲だけ盛り上がるように膨らみその周りは凹んでいる状態だった。
膵臓に相当する部位を押圧するとピンと突っ張った状態になっていた。
鍼をして最後にもう1度腹診してみると臍周辺の膨らみが腹部外側と同じくらいの高さに変わり目立たなくなっていた。
5回目 7.28(火)
6回目 7.30(木)
7回目 8.4(火)
★検査結果の改善を踏まえて医師と相談し、薬物療法を行わないことになった。
※自分の感じている鍼の感覚と実際の変化が違うことが分かった。
8回目 8.6(木)
9回目 8.11(火)
※鍼が皮膚につくかつかないかのところで鍼が動いてしまう。そのまま入れよ
10回目 8.15(土)
※肋弓の左側の2鍼目の刺鍼で鍼をこねてしまっていた。3鍼目も途中で同じ
11回目 8.18(火)
12回目 8.22(土)
13回目 8.26(水)
14回目 8.29(土)
※鍼先の反応が早く、治療時間が30分くらいで終わった。
前日に金森先生・森脇先生が中部胸椎側から上部と腰仙部の治療をされて
15回目 8.31(月)
※(鍼が出来る・きちんと当てられることが前提で)触診所見をきちんと探し触診所見を変化させると症状が改善する。
前回・前々回の時と違って今日はこの事が意識出来ていた。鍼先の当てようとする感じが変わったが、鍼先の変化を大きく求めようとすると痛みに変わる。その加減がまだ不十分だった。
16回目 9.4(金)
※鍼の当て方が悪い時が多かった。
悪いまま入れようとするとなかなか入っていかない。所見も変化しない。
何回もあったが、そのことに教えてもらうまで気付かない。
17回目 9.8(火)
18回目 9.10(木)
※副腎反応部の特に左側が膨らんでいて目立っていた。
前日に左頚肩背部の鍼を受けていた為、副腎反応部の張りがより目立っていた。
19回目 9.14(月)
20回目 9.17(木)
※副腎反応部の右側は鍼が上手くいかず少し強引になってしまった。
その為変化もあまりせず左右に差が出てしまった。
21回目 9.24(木)
22回目 9.28(月)
※今回は鍼先が遊んでいて治療になっていなかった。
23回目 10.6(火)
24回目 10.9(金)
※副腎反応部の右側は鍼先の角度が悪く上手くいかなかった。
25回目 10.13(火)
※副腎反応部の両側とも前回より良い鍼でスピードも早かった。今回の様な鍼を続ける。
肋骨、膵臓反応部はまだ不慣れな感じ。上手くいかなかった。
26回目 10.17(土)
27回目 10.19(月)
28回目 10.21(水)
29回目 10.26(月)
30回目 10.30(金)
31回目 11.4(水)
32回目 11.6(金)
33回目 11.9(月)
※両側の肋弓の鍼をしている時に腹部が鳴り始めた。
34回目 11.14(土)
35回目 11.17(火)
36回目 11.25(水)
37回目 11.27(金)
38回目 12.2(水)
39回目 12.4(金)
40回目 12.8(火)
※肋弓の触診の仕方に注意。
内側から外側に向けて触る際に外側のところで急に力が入る。
触り方に工夫をするがまだわからない。
41回目 12.12(土)
42回目 12.14(月)
※触診所見の一致、刺し手・押し手の安定性は改善された。
まだ鍼先の感覚を正確につかめていない。
43回目 12.22(火)
44回目 12.25(金)
触診:両副腎反応部とも腫れ・張りが少なくなっている。触診所見も以前に比べ大きさが小さくなっている。
触診所見の変化:左副腎反応部は1鍼目で触診所見に対して良い反応が出る。2鍼目以降は小さな触診所見を探し処置する。
※押し手が右手の為、左肋弓が触診しにくい。指摘されて押し手に変な力がかかっていたことが分かる。手の角度、手関節の硬さが原因だったと思われる。
《検査結果》
日付 |
HbA1c |
増減 |
朝食前血糖値 |
増減 |
体重 |
増減 |
H27.7/7(火) |
9.6 |
|
173 |
|
71 |
|
H27.7/15(水) |
× |
|
138 |
−35 |
69 |
−2 |
H27.8/4(火) |
8.3 |
−1.3 |
157 |
+19 |
68.4 |
−0.6 |
H27.9/9(水) |
7.0 |
−1.3 |
113 |
−44 |
67 |
−1.4 |
H27.10/6(火) |
6.6 |
−0.4 |
124 |
+11 |
65.6 |
−1.4 |
H27.11/11(水) |
6.4 |
−0.2 |
104 |
−20 |
66 |
+0.4 |
H27.12/15(火) |
6.2 |
−0.2 |
136 |
+32 |
66 |
±0 |
考察
1.薬を使用しない・運動が出来ていない状態だったが、一定程度の食事(カロリー)制限が行えていた。それに伴い、体重が71kgから66kgに低下し、HbA1cの数値が9.6から7.0に改善している。
2. 治療初期(7〜9月)は鍼治療の処方と処方に基づく鍼の使い方が分かっていなかった。
3.治療後期(10月以降)は処方の意味を理解し始め処置にも慣れてきた。
まとめ
今回初めて膵臓疾患の治療をしました。経験がなかった為、処方の意味が分からずただ鍼をしていました。回数を重ねる毎に院長の助けもあり意味を考えるようになりました。今回の研究内容をまとめるに当たり、少しずつ理解出来るようになってくると治療に対する気持ちも変わっていきました。
触診所見を正確に判断すること、刺し手・押し手の安定、鍼先の感覚をつかむこと、深度の判断・鍼をするスピード(治療配分)など考えなければならないことを今回の治療で学ぶことが出来ました。今の自分に足りないこと(鍼をする上での細やかさ、症状や変化の確認、経過観察、自信を持つこと)も治療を通して見つけられたと思います。
「本人は上手くないと意識していたようだが途中からは検査データの改善に繋がる処方が行えていたように思います。」というコメントを院長から貰いました。
処方に基づく鍼の使い方に慣れ始めた10月以降は触診所見の変化もわかり、検査データにも反映されていると感じました。
今回の経験を毎日の治療の中で活用し患者さんの為に役立てていきたいです。
※H28以降の追加データ
日付 |
HbA1c |
増減 |
朝食前血糖値 |
増減 |
体重 |
増減 |
H28.3/11(金) |
6.3 |
+0.1 |
116 |
−20 |
|
|
H28.6/16(木) |
6.5 |
+0.2 |
140 |
+24 |
|
|
H28.8/31(水) |
6.1 |
|
125 |
|
|
−2 |
H28.12/2(金) |
6.4 |
+0.3 |
|
|
65 |
+1 |
〇平成28年に入ってから1月・2月は週1,2回、3月〜5月は月2,3回、6月以降は月1回の治療をしてきました。
〇検査結果も3/11・6/16・8/31・12/2の4回行い、治療日数は減りましたがHbA1cは6.3・6.5・6.1・6.4と数値の大幅な増減はありませんでした。体重も一定に保っていました。この1年間も生活環境は変えず無理な食事制限もしておりません。
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