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症例報告

アキレス腱断裂のリハビリテーション目的の鍼治療

平成27125

 

アキレス腱断裂のリハビリテーション目的の鍼治療

松本 剛典

 

はじめに 

アキレス腱断裂という疾患(外傷)は良く知られています。治療室を開院して30年になりますが初めて受傷直後の症例に出会いましたので報告致します。

 

1.アキレス腱断裂とは

アキレス腱断裂とはどんな外傷か

 アキレス腱は下腿三頭筋(かたいさんとうきん)(ふくらはぎの筋肉)の腱部分で踵骨(しょうこつ)というかかとの骨に付着しており、足首を足底側に曲げるはたらきをします。
 アキレス腱断裂は下腿三頭筋が強く収縮することによって発生することがほとんどですが、直達(ちょくたつ)外力(直接加わった外部からの力)や過伸展(伸ばしすぎ)による断裂もあります。

症状の現れ方

 20代のスポーツ選手や40歳以上の人が急にスポーツをした場合に、とくに踏み込み動作やジャンプの着地などで発生することが多く、断裂時に「バチッ」という音がすることもあります。断裂していても、歩行や足首を底屈する(足底側に曲げる)ことは可能ですが、つま先立ちをすることはできません。

治療の方法

 保存療法と手術療法があります。保存療法ではギプス固定を行ったあと、装具を使います。手術療法では腱縫合を行ったあと、ギプス固定を行います。そのあとに装具を使う方法とそうでない方法があります。 
 再断裂率は手術1・7〜2・8%、保存10・7〜20・8%と、手術療法のほうが再断裂の危険が少なく、早期復帰が可能だとする意見が多く、スポーツ選手は多くの場合手術療法を選択します。 
 しかし、感染や皮膚の縫合不全などの合併症が皆無でないため、最近では保存療法にさまざまな工夫を取り入れ、早期復帰を可能にして、スポーツ選手にも適応を広げている施設もあります。

(執筆者:加藤 公

ホームページから転載 出典:六訂版 家庭医学大全科 発行:株式会社法研

 

 

 

 

2.手術法

端々縫合術(たんたんほうごうじゅつ) 切れてしまった端と端をつなぎ合わせる手術です。ここでは、断裂したアキレス腱をつなぐ手術のことです。アキレス腱が完全に断裂してしまった場合や、一部が断裂した場合でも、早くスポーツなどに復帰したいときに行われることが多い手術です。手術後に再び断裂することが少なく、回復は良好です。端々吻合(たんたんふんごう)術とも呼ばれます。

 

 

ホームページから転載  Minds(マインド)ガイドラインセンター

厚生労働省委託事業

 

 

3.症例

Iさん

45歳

男性

職業 消防士

初診 平成26年1月27日

主訴 右アキレス腱断裂による後遺症

平成25年12月22日右アキレス腱断裂の手術を受けギブス固定中であることを聞きギブスの取れた後で鍼によるリハビリテーションを勧める。

現病歴 平成25年12月20日 子供とサッカーをしていて右アキレス腱を断裂。

現症状 ギブス固定除去直後のため下腿三頭筋全体が拘縮、アキレス腱周囲は腫れあがっている。足関節は殆ど可動していない。足関節前面に疼痛あり。

治療 下腿三頭筋の拘縮を軽減するために大腿後側よりステンレス寸3の1号鍼を使用し、大腿後側筋の緊張を取り、循環を改善することにより腓腹筋の起始腱膜の緊張を緩和する目的。腓腹筋の起始腱膜の処置(ステンレス寸3の1号鍼)

アキレス腱移行部の刺鍼・下腿前面から足関節の刺鍼(ステンレス寸3の1号鍼)

直後効果 アキレス腱周囲の浮腫が軽減。腓腹筋の拘縮が軽減。

 

2月7日

2月19日

処置としては同様

経過 腓腹筋の拘縮は軽減

 

3月26日

治療 ポイントをアキレス腱の移行部の刺鍼に変更。 足関節の刺鍼に重点を変える。

経過 腓腹筋の緊張は取れているが足関節の可動域が十分ではない。

4月4日

経過 足関節の可動域の拡大。

5月10日

6月2日

経過 運動量が拡大。1時間程度歩行。結果、左側の足関節に違和感を感じる。

6月10日

7月2日

経過 左側の違和感は軽減。アキレス腱移行部の緊張が改善。

7月11日

経過 膝窩部に引きつり感が発症。治療のポイントを変更。

アキレス腱部の浮腫は消失。

8月5日

経過 左足関節痛発症。

8月25日

9月8日

経過 左足関節痛軽減。

9月22日

経過 右腰痛発症。

9月24日

経過 右腰痛軽減。左腰痛発症。

9月25日

9月30日

10月6日

10月14日

経過 左腰痛解消。アキレス腱の切断部の処置を始める。

10月20日

経過 左頚筋痛発症。

10月22日

11月6日

経過 左頚筋痛解消。

11月13日

11月25日

12月10日

 

考察 

アキレス腱断裂の接合手術を行いギブス固定するのは一般的な治療です。

その後のリハビリテーションがどの程度行われるのか気になっていました。Iさんに確認してみると医師・理学療法士から明確な指示は出ていませんでした。片側の下肢の運動機能の不調により受傷部位以外にも様々な症状があらわれてきます。それぞれの症状に的確に鍼治療を加える事もQOLの向上に寄与します。

アキレス腱断裂後の鍼治療(リハビリテーション)のポイント

(1)   患側の下腿三頭筋の拘縮の除去

(2)   足関節の可動域の回復

(3)   患部の疼痛の除去

(4)   運動の指示

(5)   派生して現れる色々な症状の対応

 

おわりに 

今回の症例を経験してみて外傷、手術後の症例が意外に多い事を再確認致しました。それぞれの症例に対応していくと多種多様な要素への対応力が増してきます。この種の疾患(外傷・手術後)は鍼治療の新たな治療分野になることを再確認致しました。

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