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平成29年1月22日
眼科疾患に対する鍼治療
(眼底出血・緑内障・網膜色素変性症)
松本 剛典
森脇 安浩
はじめに
眼科診療は多くの課題を抱えつつ近年著しい進歩をとげました。また、鍼治療の分野においても諸先輩方が多くの眼科疾患に対して治研を発表しています。私も『頭部の循環改善』特に『眼底部の循環改善』に着目して治研を発表したいと思います。
仮説
①
鍼施術により『頭部の循環改善(眼底部の循環改善)』は可能か?
②
眼底部の循環改善により有効な治療が可能か?
鍼施術による頭部の循環改善
脈管内系の循環改善の要素
静脈系に働く力
拍動による陰圧
呼吸による胸郭内の陰圧
重力
頚部の筋の収縮
リンパ系に働く力
呼吸による胸腔内の陰圧
重力
頭頸部の筋の収縮
脈管外系の循環改善の要素
組織液に働く力
組織間の圧勾配
参考資料
内頭蓋底
前頭蓋窩 |
3窩の内で最も浅い、大脳前頭葉を容れる。 |
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中頭蓋窩 |
正中部は蝶形骨の体で中頭蓋窩を左右の両部に分ける。 |
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後頭蓋窩 |
側頭骨の鱗部と後頭骨から作られる。 |
※解剖学 医歯薬出版株式会社より抜粋
緑内障について
人がものを見ることができるのは、角膜・水晶体を通って網膜上で結んだ像の情報が眼球から脳に向かって延びている「視神経」に入り、脳に色や形の情報を送るからです。伝わった情報が脳で画像として組み立てられて、私たちは見えたものを認識するのです。
緑内障では、その情報の橋渡しをしている視神経に異常が起こり、眼からの情報を正確に伝えられず、脳で画像をうまく組み立てることができなくなります。その結果、視力や視野に障害を起こしてしまいます。
昔は「あおそこひ」と呼ばれ、失明に至ることもある病気として恐れられてきました。
2000年から行われた疫学調査では、40歳以上の5.78%に緑内障が認められることが報告されています。
原因は何か
眼のなかには血液の代わりとなって栄養などを運ぶ房水が流れています。房水は毛様体でつくられ、シュレム管から排出されます(図33)。眼球そのものは軟らかいものなので、球形を保つには内部から外側に向かう一定の力が必要です。それを眼圧と呼んでいます。例えばボールでは空気がその役割を果たして空気圧により硬さが左右されますが、眼球では眼球内を流れる房水の量が眼圧を左右しています。
眼圧の正常値は10~21mmHg(ミリメートル水銀柱)で、21mmHgを超えると高眼圧といいます。眼圧が高くなるのは、何らかの原因で房水の産生と排出がアンバランスになるためです。緑内障の視神経の異常(視神経乳頭陥凹)では、視神経がつぶされた状態になります。高眼圧の緑内障では、圧力により視神経が萎縮します。
また眼圧が正常でも、視神経が圧力に耐えられない場合に視神経に異常が起きるとされています。緑内障には多くの病型があり、とくに眼圧が正常範囲のタイプ(正常眼圧緑内障)が日本人に多いことが分かっています。
緑内障の場合、正常値の21mmHg以下なら心配ないというわけではなく、視神経乳頭の陥凹の状態や視野障害の状態を加味して判断する必要があります。つまり、障害の進行が停止するレベルまで眼圧を下げる必要があります。眼圧は季節や時間帯によって変動し、緑内障の人ではとくにその変動の幅が大きいことが知られています。それらを含めて眼圧の基本値を把握することが大切です。
症状の現れ方
緑内障の症状には、急激に眼圧が上昇し眼の痛みや頭痛、吐き気など激しい症状を起こすもの(急性緑内障)と、ほとんど自覚症状がないまま病気が進行してしまうもの(慢性緑内障)があります。
急性緑内障では、時間が経つほど治りにくくなるので、すぐに治療を行い、眼圧を下げる必要があります。一方、多くの患者さんがかかる慢性緑内障では、瞳の色はもちろん、痛みや充血などの症状はほとんどないままに進行し、視力低下も病気の最終段階まで現れません。このため、患者さん自身が病気を自覚することが難しく、治療開始が遅れることが多々あります。
慢性緑内障の唯一の自覚症状は視野の一部に見えないところができること(視野欠損)ですが、通常2つの眼で見ているため、互いの視野でカバーされ、進行するまでなかなか気がつかないことが多いのです。しかし、定期的に検診を受けていれば、視野が十分広いうちに、緑内障による視神経の障害を見つけることができます。
近年、眼圧検査・隅角検査・視神経の検査・画像解析検査により早期発見が可能になりました。また、治療法は進歩し、かなりの患者さんで視野障害の進行を防ぐことができるようになってきました。緑内障によって障害された視神経は治療を行っても元に戻らず、すでに失われてしまった視野も回復しないので、早期に発見し進行を防ぐ治療を行うことが大切です。
視野障害の進行は以下の通りです。
(1)初期
眼の中心をやや外れたところに暗点ができます。自分自身で異常に気づくことはありません。
(2)中期
暗点が拡大し、視野の欠損が広がり始めます。しかし、この段階でも片方の眼によって補われるため、異常に気づかないことが多いようです。
(3)後期
視野は更に狭くなり視力も悪くなって、日常生活にも支障を来すようになります。更に放置すると失明に至ります。
検査
緑内障は、眼圧検査、眼底検査、隅角検査、視野検査、画像解析検査などで診断されます。定期検診などで異常があった場合、必ず眼科医の診察を受けるようにしてください。
(1)眼圧検査
眼圧計には、空気を当てる非接触型と、麻酔をかけて角膜の表面に測定器具を当てて測定する接触型とがあります。前者は主に検診などで高い眼圧を見つけるのに適しており、緑内障の経過観察には、より正確な後者の接触型を用いることが望ましいとされています。
(2)眼底検査
視神経乳頭の陥凹を直接確認する検査です。緑内障では、視神経乳頭の真ん中にある陥凹が徐々に広がり、その色調も白くなってきます。視神経乳頭の変化は視野検査の異常に先立って現れるので、緑内障の早期発見、特に眼圧異常を伴わない正常眼圧緑内障の診断に重要です。
(3)隅角検査、細隙灯顕微鏡検査
高眼圧の原因の診断や、緑内障の病型決定に大切な検査です。房水の通り道である隅角の状態を精密検査することで、隅角が十分に広ければ開放隅角緑内障、狭い時には閉塞隅角緑内障などの診断が可能です。続発緑内障や先天緑内障では特徴的な所見がみられます。超音波生体顕微鏡では隅角の形状観察が可能で、病型診断に有用です。
(4)視野検査
緑内障であるかどうか、また緑内障がどの程度進行したものかを正確に判断するために重要な検査です。視野とは、眼を動かさないで物が見える範囲のことです。正常な人の片眼で見える範囲は、だいたい鼻側60度、耳側100度、上側60度、下側75度です。視野検査は光の点を点滅させて、見えにくい部分がないかを片眼ずつ測ります。見える範囲だけでなく、見えている範囲内での感度を調べることも重要です。動的視野測定法と、静的視野測定法とがあります。
初期~中期の視野欠損では自覚症状のないものがほとんどです。青や黄などの光、点滅する光、特殊な標的(輪など)を用いる新しい視野検査も数多く開発されており、初期の緑内障の診断に有用です。
(5)画像解析検査
近年コンピュータ技術の発達により、様々な画像解析検査が普及してきています。これらの画像解析検査は視神経乳頭の変化や乳頭周囲の網膜神経線維の解析に有用です。
診断
ひと口に緑内障といってもひとつの疾患ではなく、病型により原因や発症、症状、治療などに大きな違いがあります。眼圧に関して分類すると、眼圧が上昇するタイプと上昇しないタイプがあります(表1)。
眼圧が上昇する原因は、房水がつくられる量と排出される量がアンバランスになるからです。そのバランスが崩れる原因の違いによって、眼圧が上昇する緑内障はさらに閉塞隅角緑内障と開放隅角緑内障に分けられます。
眼圧が上昇しないタイプは開放隅角緑内障のひとつのタイプといえますが、正常眼圧緑内障と呼ばれています。そのほか、先天性の緑内障、眼の外傷やそのほかの病気に引き続いて起こる続発緑内障などがあります。
治療の方法
緑内障の治療は病状に合わせて選択されます。大多数を占める慢性緑内障で視野異常が進行していない場合は、まず薬物による治療(主に点眼薬)から始めます。大きく分けて5種類の緑内障治療薬(表2)があり、緑内障のタイプ、眼圧の高さ、視野異常の進行度などに合わせて処方されます。
薬物では眼圧が十分に低下しない場合、視野異常の進行が止まらない場合はレーザー治療や手術治療が行われます。
薬やレーザー治療、手術療法で眼圧がある程度下がっても、それで治療が終わるわけではありません。定期的に視野検査を受け、視野障害が進行していないことを確認して、初めて治療が順調であるといえます。また、眼圧はいったん安定しても治療を中断するとまた変動します。緑内障は生涯にわたる管理が必要となります。
網膜色素変性症
網膜の神経細胞が徐々に死んでいくことにより変性萎縮に陥り、その後に黒い色素が沈着してくる病気です(図47)。最初に障害が起こる神経細胞は視細胞、なかでも暗い所で働く杆体細胞です。
いろいろな病型があるため、発症の時期、症状、進み方などに広い幅があり、人によってさまざまです。日本では、3000〜8000人に1人くらいの割合で発症すると考えられています。
原因は何か
遺伝子の異常で起こる病気です。遺伝子異常の種類は、無数といってもよいほどたくさんあることがわかっており、その違いによって、多様な臨床像や経過をとると考えられています。遺伝の形式は、おおよそ常染色体優性、劣性、X連鎖性、孤発性の4つがあります。
症状の現れ方
代表的な症状は夜盲、視野狭窄、視力低下、羞明などです。多くの場合、最初に自覚する症状は夜盲です。日が暮れるとよく見えない、暗い所に急に入るとまったく見えない、時間がたってもほかの人のようには見えてこないなどです。逆に、明るい所でまぶしいという症状もあります。
視野狭窄が進むと、歩く時や自転車に乗った時に足元がわかりにくかったり、横から出てくる人や車に気づきにくくなったりします。視力は長期間正常に保たれることもありますし、早期に低下することもあります。
白内障を合併することも多く、その場合はかすみ感が現れます。
検査と診断
眼底検査、視野検査、暗順応検査、網膜電図検査などで診断されます。眼底検査で、特徴的な眼底所見があれば診断は難しくありません。視野検査では求心性狭窄、輪状暗点などがみられます。網膜電図は特徴的で、初期から大きく振幅が低下する、あるいは消失するなどがみられ、診断を確定するのに有力です。
治療の方法
薬物ではビタミンA、E、血管拡張薬などが一般的ですが、今のところ確実に有効という方法は見いだされていません。現在、精力的に研究が進められている遺伝子治療、移植医療、再生医療、人工網膜など先端的医療の臨床応用が実現すれば、治療が可能になるでしょう。
根本治療はできませんが、症状に応じて対策を考えることは重要です。羞明には遮光眼鏡の装用、残されている視機能を有効に活用するには弱視眼鏡、拡大読書器などが有用です。また、白内障を合併している場合には、白内障手術・眼内レンズ挿入が効果的です。
網膜色素変性症に気づいたらどうする
専門医に診断してもらい、自分の病気を正しく理解することがまず必要です。網膜色素変性症をめぐっては、患者さんの数が多いこと、遺伝病であること、治療が困難であることなどから、さまざまな問題、混乱があると感じています。病気を正しく理解することから始め、残存視機能の活用を考えること、カウンセリングを受けることが有意義と思います。
※家庭医学館 小学館より緑内障・網膜色素変性症から引用
症例
①
眼底出血の症例
Hさん
56歳 女性
初診 H26.9/25
主訴 右の眼底出血 高血圧
既往歴 出産時に右眼底出血(約30年前)
現病歴 H26に再発
眼科受診するが視野の中に見え難い部分が残る。
血圧は降圧剤を服用しているが不安定。
治療として血圧を安定させる目的で肩・頚・背中に刺鍼。
*眼底部に対する基本処置。
肩~頚~後頭部に対する処置
菱形筋停止部
肩甲挙筋停止部
僧帽筋上部繊維の停止部(肩甲棘の上縁)…深度としては20mm
脊柱起立筋の上部胸椎側の高さから後頭部の停止部まで…深度として25mmまで
胸鎖乳突筋後縁…深度として25mmまで
後頭骨下縁…深度として30mm
前頚部~顔面部に対する処置
浅頚リンパ節群の処置
上深頚リンパ節(傍に内頚動脈が通っている)…胸鎖乳突筋前縁の停止部の高さで深度25mm付近。
耳下・顎下・耳前リンパ節の処置
頬骨上縁…深度10mm前後
1回目 H26.10/2
2回目 10/6
3回目 11/26
4回目 11/27
5回目 H27.2/18
6回目 2/24
7回目 3/2
8回目 3/13
9回目 4/7
10回目 6/19
11回目 7/14
12回目 10/8
13回目 11/13
経過 H27.2に血圧が上昇。眼底出血の再発。
H27.6診察で眼科での眼底検査の結果 眼底出血は吸収 視野の異常が残る
H27.12の検査で眼底の浮腫が消失 視野の異常も消失
治療方針としては眼科主治医の指示に従ってもらう。血圧のコントロールに注意してもらう。眼底部の基本的な処置を行う。
仮説①に対する考察
鍼施術により頭頸部のボリュームが小さくなる(腫脹の減少)
触診と視診(患者さん自身が確認できる程度の変化がみられる)
これは明らかに頭部の循環が改善したものと判断できる。
②
緑内障の症例
Gさん
41歳 男性
初診 H24.6/30
主訴 肩こり 頭痛 喘息 高血圧 緑内障の進行予防
現病歴 30代で発症。初診時の時の眼圧が左27・右28。視野の欠損あり。
おおむね月1回のペースで治療する。
経過
H26.3/3に左眼手術 投薬・眼科治療により眼圧は20程度に安定 視野欠損の進行はなし。
Mさん
46歳 女性
初診 H19.8/28
主訴 右頭痛 右肩コリ 左眼底出血 左右正常眼圧緑内障の進行予防
現病歴 30代発症 眼圧は点眼薬により左右12~13に安定
右3分の1視野欠損 左2分の1視野欠損
緑内症の定期的な治療はH27.3から開始 月1回もしくは月2回程度実施
経過 視野欠損の進行は無し。
※処置としては基本的に眼底出血の処置と同じ
治療方針として眼科で慢性隅角開放型緑内障と診断された症例について基本的に対応する。
眼科主治医の指示(特に点眼薬の処方)を忠実に守ってもらう。眼底部の基本的処置を行う。
③
網膜色素変性症
Iさん
48歳 女性
初診 H14.8/12
H24.3/30から本格的に網膜色素変性症の治療を始めた。
主訴 肩こり 網膜色素変性症の進行予防
現病歴(H24.3/30~) 初診時の症状 視力は運転が出来る程度 視野内側3分の1欠損
月2回から始めて現在は月1回の間隔で来院
経過 眼科医の指導の下、進行はしていない。半年に一度の眼底検査で確認。
治療方針として眼科主治医の指示に従ってもらう。眼底部の処置を行う。
仮説②に対する考察
なぜ、眼圧が正常値にも関わらず緑内障の症状が出るのか?
高眼圧により眼底部の症状の増悪が進行するのではないのか?
という問いがこのアプローチのきっかけになっております。眼底部の循環の不全により網膜・視神経の状態が十分でない状態であれば症状の進行が起こるのではないか。頭部の循環改善に伴い眼底部の循環改善も起こりうると考えられます。
鍼施術者自身では眼底部の検査をすることが出来ない為眼科主治医の眼底検査の結果を指標として判断をしていくことになりました。
治療結果として症状の増悪が起きませんでした。
投薬の効果を補助する働きが起きたとも考察できました。
まとめ
眼科領域(特に眼底部に起因する疾患)の鍼治療は眼底部の検査を直接行えない為、治療に困難を覚えてきましたが眼科医による眼底検査をすることにより鍼治療に客観性をもたせることが出来ました。疾患によっては視力(視野)を維持することが患者さんにとっての大きなメリットになりえます。将来的な可能性として眼底のレーザー治療の補助的な鍼施術が開発出来ればなと考えております。
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